こんばんは。東京で美容外科をしている形成外科専門医の齋藤隆文です。
鼻整形を考えるときに、一度は目にする施術メニュー、シリコンプロテーゼ。実際にはシリコン以外にもゴアテックスだったりPDOプレート、注入系だとヒアルロン酸といった様々な人工の材料があります。
とりわけシリコンプロテーゼについては、使い方を間違えなければ安全性が確立されてきている施術ですが、どんな治療にもリスクはつきものです。
この記事では、それらのリスクの中でも重要と思われる、感染、露出いわゆる飛び出してきてしまうことが実際に起きてしまった患者さんの治療経過写真を例に、どのように修正を行わなければいけないかを解説したいと思います。
これからお鼻の手術を検討されている方、実際に手術を受けて赤みや透けで悩んでいる方、鼻整形でのシリコンプロテーゼ入れ替えや自家組織への切り替えを検討されている方には、ご一読いただく価値のある内容になっていると思います。
- シリコンが感染したり、そもそも手術操作が不適切でとても浅い位置に入っていたり、様々な要因で皮膚からシリコンが飛び出しそうになる露出リスクがある
- 露出しそうになったら、できるだけ皮膚を傷つけないようにシリコンを抜く。感染がある場合はまず感染を落ち着かせる
- 皮膚に穴が空いたり、薄くて避けそうになっている場合は、まずその治療を受ける
- 皮膚の状態が十分に回復したら、希望の形になるような手術を再度計画する。拘縮や変形をきちんと診断して綿密なプランを立てて手術に臨む
実際に鼻先からプロテーゼが出てきたらどうするか?感染、皮膚、形の順で治療プランを考える
最初にも書きましたが、シリコンプロテーゼは正しい使い方をすれば鼻整形においては安全性の確立されたものと考えられています。
特に、鼻筋だけにI型と言われるストレートの形状であまり厚みの強くないものを入れるのであれば、長期的にも安定していることがほとんどかと思います。
では、一部のケースでシリコンプロテーゼが感染したり露出するのはなぜなのでしょうか。キーワードは、異物いぶつです。つまり、シリコンは自分の体の成分ではない、自己組織とは異なったものだ、ということがポイントになります。
そもそも、私たちの体は全身に血が通っており、この血液の中に免疫めんえき(自分の体を細菌やウイルスから守る機能の一つ)に関わる、いわゆるバリア機能を持っています。細菌が体の中に入っても、このバリア機能で感染を未然に防いでいるわけです。
ただし、シリコンが体の中に入ると、シリコンには血が通っていませんので、シリコンについた細菌には血液の中のバリア機能がうまく作用しません。
また、抗生剤も同じです。抗生剤こうせいざいを飲むと、抗生剤は血液の中に吸収されて、血流に乗って細菌が悪さをしている部分まで送られます。これも同じく、シリコンには血液が流れていないのでうまく届き切らないことがあります。
ですので、シリコンに付着した細菌は好き放題に増殖することができるわけです。正しい使い方を守っている何人かの著名な先生方の報告によれば、感染率はせいぜい数パーセントです。決して頻度の高いものではありません。
次に、なぜシリコンプロテーゼは露出するのでしょうか。基本的に、私たちの体は、自分以外の物質、つまり異物が体内に入ることを拒否しようとします。
また、L型プロテーゼのように無理やりに鼻の皮膚を引き伸ばそうとして入っていると、シリコンが中から下から押している部分の皮膚が薄くなることで、インプラントが体から出てしまうような作用が起きます。
たいていの場合、鼻先か、鼻孔の入り口近くの鼻中隔部びちゅうかくぶ(鼻の真ん中の壁)から露出することが多いです。
基本的には、感染しやすく、体から出てこようとしているようなものを、とっても薄い鼻筋や鼻尖びせんの皮膚のすぐ下に入れようとしているわけです。どうしてもトラブルをゼロにすることができない理由がここにあります。
いずれにしても、シリコンプロテーゼが感染してしまったら、余計にプロテーゼ周囲の組織は弱くなり、そのままにしていると皮膚から飛び出してきてしまうことになります。シリコンが露出するケースの多くが、感染がきっかけになっていると考えて良いと思います。
なので、プロテーゼが飛び出しそう、あるいは飛び出してしまった場合には感染の有無を確認し、感染を治療することが第一となります。プロテーゼが飛び出そう、あるいはすでに出てきている場合は抜去します。
そして、感染が落ち着いたら、感染により傷んでいたり、場合によっては穴が開いてしまった皮膚を治療して、回復させる必要があります。皮膚が十分に回復した先に、ようやく形を治療することができるようになります。
抜去はいかに皮膚を温存するかを考える。傷を最小限にしたアプローチが肝
ちなみに、プロテーゼを抜去すると言うと、
シリコンの透けているところから抜くんですよね?キズアト大丈夫ですか?
とお考えになることが普通かと思いますが、実際にはそうとも限りません。
この方は、他院にてシリコンプロテーゼを鼻筋に入れてもらったものの、鼻尖びせんからプロテーゼが飛び出してきそうになり私の外来へご相談にいらっしゃいました。
鼻尖の左側から今にもシリコンが飛び出してきそうなのがわかるかと思います。しかし、たとえこれくらい皮膚が薄くなっていたとしても、可能な限り鼻腔内から、つまり鼻の穴の中からプロテーゼを抜去するようにしています。
実際、この方も鼻腔内の切開から丁寧にプロテーゼを抜去しました。あとは、抗生剤による感染治療を行います。感染の原因となっている細菌を特定し、この細菌に合った抗生剤を選択することも重要です。
感染が落ち着いたら皮膚を治す。皮膚は根気よく取り組むことで回復してくれる
患者さんによっては、すでにシリコンが出てきてしまった方、あるいは、他院でシリコンを抜去してもらったあとの傷跡でお悩みでご相談にいらっしゃるケースもあります。
また、そういったトラブルのあとの傷跡・瘢痕はんこんや変形も含めて、修正手術で形を良くしたいというご希望の方もいらっしゃいます。
ここでポイントなのは、カタチ作りの前に、皮膚の状態が修正手術をするのに適切な状態であるのかを見極めることです。特に、大きくカタチを変えたり高さ、細さを出すようなプランを計画する場合には、皮膚の状態がとても重要になってきます。
この方の場合も、鼻腔内からシリコンを抜去したあと、鼻先の薄くなっていた皮膚の部分はやはり凹みが残ってしまいました。そんな中で、修正手術ではしっかりと高さもあり細い鼻尖を強くご希望されました。
鼻尖の皮膚が薄くて弱く、凹みが残った状態で修正手術をしてしまうと、凹みが目立ってしまうだけでなく、薄くなった皮膚の部分にまたトラブルが起きてしまうリスクも背負うことになります。
こういった場合には、一度立ち止まって、最終的にきれいなお鼻をゲットするためにどのように計画を立てるべきかを、きちんと考える必要があります。
今回のケースで考えると、方針はいくつか考えられました。
- ダウンタイムが取れる場合は、皮膚と脂肪を皮膚のへこみ部分に移植して、皮膚を厚くする。一度の治療で皮膚が大きく改善するが、最終修正手術までの間、一度鼻尖が太くなる。
- ダウンタイムが取れない場合は、複数回の脂肪注入により少しづつ皮膚の状態を改善して、修正手術を検討する。瘢痕は柔らかくなるため、お鼻のカタチは変えやすくなるが、脂肪注入では皮膚そのものの厚みは得られにくいため、傷跡は残りやすい。
- 傷跡の凹みが残るのは構わないので、いきなり修正手術を行う。
これらのような選択肢をご説明した結果、最終的に傷跡きずあとが一番目立ちにくく、大きな鼻のカタチの変化にも対応できるような皮膚を得られる①のプランで計画することになりました。
手術は静脈麻酔じょうみゃくますいで眠った状態で行います。プロテーゼの抜去と同じ鼻腔内の切開からアプローチして、皮膚のへこみがある部分の皮下を丁寧に剥離はくりしてスペースを作ります。
そして、体の他の部分から皮膚と脂肪を採取してきて、この部分に移植します。
今回は、最終修正で肋軟骨ろくなんこつを使った鼻手術をすることも決めていたため、肋軟骨を採取するための胸の切開部位から皮膚と脂肪を採取することで、できるだけお傷を減らすように配慮しています。
こちらが、皮膚と脂肪を移植し3ヶ月が経った時点でのお写真です。鼻尖びせんが太くなるとともに、すでに鼻尖の皮膚のへこみがわからないくらいきれいになっているのがわかるかと思います。どちらもお鼻はお化粧なしです。
理想の形にもう一度挑戦する。根気強く、しっかりした準備があれば形は改善する
皮膚と脂肪の移植後は、皮膚が十分に強くなり、また安定した状態になるのを根気よく待つ必要があります。今回も、約5ヶ月間しっかりと待っていただき、最終手術に臨のぞみました。
最終的な手術にあたってのご希望は、
- できるだけ鼻尖も鼻筋も高く細く作りたい
- イメージは、めちゃくちゃきれいで強めのお姉さん
という、シンプルでわかりやすいご希望のもと、写真シミュレーションを行いゴールのカタチを共有しました。
手術は全身麻酔ぜんしんますいとなります。前回皮膚と脂肪を採取した胸の小さな傷跡からアプローチし肋軟骨ろくなんこつを採取しています。お鼻は鼻柱部と鼻腔内からのアプローチです。
鼻尖びせんを高くする鼻中隔延長術びちゅうかくえんちょうじゅつも、鼻筋を高くする隆鼻術りゅうびじゅつも、肋軟骨で行っています。鼻先の柔らかい印象を作るために耳介軟骨も採取し使用しています。
まとめ
今回は、シリコンプロテーゼが実際に鼻尖びせんから飛び出しかけている状態から、理想とする鼻を作り直すまでの全過程を、実際のお写真を見ながら解説しました。
まずは、プロテーゼが透けてきたり、感染が起きた場合、それがなぜ起きているのか、またどのような対応を考えるのかをご理解いただけたかと思います。
プロテーゼが出てきそうだからと、その透けている部分からプロテーゼを取り出そうとしたり、実際取り出して傷跡きずあとが広がってからご相談にいらっしゃったケースもあります。
また、感染しているからと、ただひたすらに抗生剤を継続していたものの良くならず、ご相談にいらっしゃって色々と検査をしてみるとそもそも抗生剤の種類が不適切だった、といったこともあります。
最初の段階から正しいアプローチで治療を受けることが大事です。
また、こうしたトラブルのあとの修正手術の場合には、皮膚の状態の見極めが大事であることもよくおわかりいただけたかと思います。
皮膚やカタチが悪くなってしまった場合、焦って修正手術をお受けになる方が少なくありません。お気持ちはすごくわかりますが、最終的にカタチがきちんとよくなる、確実なプランを立てて、ステップを踏んだ治療が必要になることもあります。
状態に応じた、適切なプランで治療を開始されることを切に願います。
肥厚性瘢痕・外鼻変形 齋藤隆文*, 大竹尚之*
*聖路加国際病院形成外科
JOHNS 35(11):特集 鼻閉にまつわる問題とその解決策 序 鼻閉にまつわる問題について 1645-1648 2019
<施術内容>
初回:プロテーゼ抜去術
2回目:真皮および脂肪移植術
3回目:鼻中隔延長、鼻尖形成、隆鼻、
肋軟骨・耳介軟骨採取
*他に、下まぶたに裏ハムラ変法(経結膜脂肪移転術)を行っています。
<手術費用>
3回の合計金額 215万円
*今回はモニター料金となっています
<リスク>
術後出血、感染、キズが開く、
曲がりや変形の残存、後戻り、など
- 聖路加国際病院 形成外科 毎週金曜日 初診外来 予約制
- 加藤クリニック麻布 美容外科 月曜日水曜日土曜日 初診外来 予約制
*HPトップページに予約可能なお日にちとクリニックのカレンダーを掲載しています
- 患者さんの個人情報の保護のため、ご本人とのお話の内容は一部変えています。あくまで、一般的な治療の流れを理解していただくための、イメージだと考えてください。
- 治療の効果には個人差があります。主治医から十分な説明を受け、リスクや副作用についても納得してから手術を受けましょう。
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