こんばんは。東京で美容外科をしている形成外科専門医の齋藤隆文です。
シリコンインプラント、プロテーゼによるお鼻の手術(俗にいう隆鼻術りゅうびじゅつ)。
この手術後の、シリコンが透けてきた、曲がってきた、ずれた、豚鼻になってきた、などのトラブルでお悩みの方、あるいは今後この手術を受ける方に知っておいてほしいことは以下の4つです。
- 鼻の曲がりがある場合は、原則として曲がりを治しましょう
- 曲がった鼻にシリコンを入れると、結局、曲がってしまいやすい
- シリコンは、長期的に、このようなズレ、皮膚が薄くなる、というリスクがある
- 鼻詰まりもある場合は、見た目も機能も同時に診察を受けておく
この記事では、シリコンインプラント術後のトラブルとその修正について、実際のお写真を見ながら治療の流れをご紹介します。
シリコンプロテーゼは、使い方を間違えなければ危険な手術ではありません
シリコンインプラントによる隆鼻術(りゅうびじゅつ)は、現在でも広く行われている鼻の美容手術の代表格だと思います。韓国を中心としてシリコンによる隆鼻術の医学論文もたくさん報告があり、鼻筋を高くすることに限って言えば、安全性が広く謳うたわれてます。
ぼく自身はシリコンを使ったお鼻の手術はしていませんが、経験があり安全性を十分に検討してくれる先生に頼めば、シリコンを使った隆鼻術が多くの利点を持っていることは事実です。
しかしながら、自分の体の中に、いわゆる”異物”を挿入するわけですから、様々なリスクを同時に負うことになります。シリコンインプラントの欠点、そしてそれにより起こり得るトラブルを事前に知り、よく理解してから手術に望んで欲しいと思います。
また、これからお話しするようなトラブルが不運にも起きてしまった方は、まずは、手術内容を詳細に把握している担当医に相談してください。そして、担当医の手に負えない状況の場合には、十分に経験のある外科医に相談しましょう。
シリコンインプラントについては、起こる合併症にいくつか典型的なパターンがあり、適切に治療をすれば改善が期待できます。
L型プロテーゼの典型的なトラブルは4つ
まず、シリコンインプラントは鼻筋(医学的には鼻背びはいといいます)を高くするためだけに使うと覚えてください。鼻先を高くするのに使ってはいけません。昔は鼻先も高くするためにL字型のインプラントが使われていましたが、以下のような典型的なトラブルが起こりますので、使わないでください。
- 鼻先が過剰に細くなる。L字の角が透けて目立つようになる。
→鼻先の皮膚がL字の角に引き延ばされて薄くなり、鼻先が過剰に細くなってきます。 - インプラントが徐々に鼻の付け根(鼻根部)側に移動し、鼻先が上がる。鼻の穴が見えやすくなり豚鼻になる。
- 年齢と共に鼻先が下垂し、逆に鼻根部のシリコンが鼻骨から浮いてグラグラする。
- 体の中から出てくる
→たいていの場合、鼻先か、鼻孔の入り口近くの鼻中隔(びちゅうかく)部(鼻の真ん中の壁)から露出することが多いです。
余談ですが、私のもとに、口の中にしこりのようなでき物ができたとご相談にいらっしゃった方がいて、画像検査をしてよくよく診察してみると、1年前に入れたL字型のシリコンインプラントが口の粘膜を突き破って出てきていた、なんてこともありました。
読んだだけで恐ろしいと思いますが、私の病院に相談にいらっしゃる方のシリコンインプラント関連のトラブルはほとんどが上に挙げた内容です。
逆に、これらのトラブルが数多く発生したことで、それに対する治療は現在ではかなり進歩しています。適切な処置で改善が期待できます。
現在の主流はI型インプラントで、これは鼻先まで入れなければ比較的安全に使用できます。あとは注意すべき合併症を知り、理解しておきましょう。
L型じゃなくても、感染と露出には注意が必要です
次に、深刻な合併症についてです。
感染
ばい菌がインプラントについて周りの組織がダメージを受け変形します。典型的には術後しばらくしてから赤くなる、腫れる、痛い、などで発症します。
注意すべきは、術後半年以上たったあとも、たまに腫れたり赤くなるのを繰り返す場合です。放置すると露出(外に出てくる)、拘縮こうしゅく(皮膚が縮む、ゆがむ)を起こします。
どんどん変形が進むだけでなく、このパターンで起きた変形を直すのはかなり難易度が高くなります。放置せずに、おかしいな、と思ったら担当医に相談することが大事です。
露出
外に出てきます。これは感染の他に、サイズや形の問題が原因であることが多いです。出てきそうだと思ったら、まず医師に速やかに相談してください。
上記の二つは早急な対応が必要なので、術前から頭に入れ、起きたら放置は厳禁です。
あとは、年月が経つにつれて徐々に起こってくるものもあります。
- 曲がる
- 皮膚から透けて見える
- 凸凹してくる
などが典型的です。
ここでは、これらが起こってしまった患者さんの写真を見ながら、その治療を解説したいと思います。
実際にシリコンプロテーゼが曲がったケースから学ぶ注意点は4つ
ここからは、シリコンインプラントの合併症について、実際のお写真を見ながら解説していきたいと思います。この方は、数十年前のお鼻の怪我による鼻骨骨折で斜鼻(しゃび)となった患者さんです。
当時、他院の形成外科で治療をして、曲がりを隠すためにシリコンインプラントを入れてもらったそうです。術後、徐々にインプラントが曲がってきたのですが、長きに渡って我慢しておられました、、、
ただ、最近になって皮膚から透けて見えることが心配になり、近所の耳鼻科に受診し、耳鼻科の先生からこちらにご相談をいただきました。
この患者さんから学ぶべきことは、シリコンインプラントはただでさえ曲がるリスクがあるので、曲がったお鼻に入れると、余計にズレて曲がっちゃうよ、ということです。
なので、シリコンが曲がって悩んでいる、という方は実は、そもそもお鼻の曲がりが同時にあったりします。
ここでのポイントは、以下の4点です。
- 鼻の曲がりがある場合は、原則として曲がりを治しましょう
- 曲がった鼻にシリコンを入れると、結局、曲がってしまいやすい
- シリコンは、長期的に、このようなズレ、皮膚が薄くなる、というリスクがある
- 鼻詰まりもある場合は、見た目も機能も同時に診察を受けておく
なお、現在は、鼻骨骨折をそもそもシリコンで治すという外科医はいないと思います(昔にいたというのも驚きです)。
骨折したら、2週間以内に適切な治療を受ければだいたいの場合見た目はきれいになります。鼻中隔(びちゅうかく)に骨折があった場合は追加手術が必要になることがありますので、主治医の先生の術後フォローをきちんと受けましょうね。
曲がったシリコンプロテーゼには画像検査が必須。治療は骨から皮膚まで丁寧に行う。
さて、この方は、C TとM R I検査を施行し、骨と軟骨両方の曲がりを確認しました。シリコンプロテーゼが曲がった人の修正の場合、画像検査は必須です。必ず行ってください。
実際の画像がこちらです。
先に挙げたポイントと比較しながら確認してみてください。土台が曲がっていると、何かを乗せても曲がりやすくなります。
鼻骨の曲がりがある場合は、骨切り術といって、鼻骨の外側と真ん中を切って、一旦お顔の土台の骨から切り離して、正しい位置に再固定します。プレートなど人工物で固定したりはしません。
ついで、軟骨の治療も行います。曲がりの強い部分は、不要なエリアは切除し、必要な部分は切除した軟骨を当て木のように使用してストレートに補強していきます。鼻詰まりがある場合は、曲がった鼻中隔(びちゅうかく)をまっすぐに治す治療を行うことで改善が期待できます。
最後に、皮膚の補強です。
鼻背部の皮膚は非常に薄くなっていたので(皮膚の下にあるものが表から透けて見えるくらいです)、体の別の部位から皮膚と脂肪を少し採取して、皮膚を強くする治療を追加しました。真皮脂肪移植(しんぴしぼういしょく)、とか、Dermal fat graftといいます。
今回は、鼻詰まり・曲がりを改善し、望まずして入れられてしまったインプラントを抜去するだけを希望されました。しかしながら、皮膚がとても薄くなっていたため、皮膚の補強だけは追加することにしました。
土台を直してから、乗っているものを治す。のが、きちんとした治療です。シリコンインプラントや自分の軟骨で鼻を高くしたい場合は、このように土台をきっちり直しておけば、曲がるリスクは最小限に抑えることができます。
こういった、土台直しの診断、治療から取り組んでくれる先生を選ぶことが大切です。今回は、術前と、術後6ヶ月の術後写真を提示しています。
手術の前に、現状の理解と、術後ゴールのイメージを共有するように努力しています
画像検査で中の構造を細かく確認します。 お顔の左右差、全体のバランスを一緒にお写真で見ながら、患者さんとその方の自覚している”曲がっている”を共有できるように努力しています。
曲がりを修正していく中で鼻の高さや長さについてももちろん変化が起きるので、ご自身が認識されているお顔の特徴・コンプレックスを確認して、手術による変化でそれらが悪い方向にいかないかを確認します。
こういったことを確認するツールとして強力な武器となるのが、写真を使ったシミュレーションです。
写真を手術に沿って修正していきながら、術後の形のイメージを事前に共有しておくことで、患者さんにも手術による変化に対する心の準備をしてもらうようにしています。
まとめ
シリコンプロテーゼは決して危険な治療ではありませんが、正しい使い方を守ることが大事です。特に、L型のものは使用を避けた方が安全です。
L型をすでに使ってしまい、違和感を感じている人は、ひとまずここであげた4つのポイントをチェックして見ましょう。典型的なトラブルはこの4つですから、これがなければ修正を焦る必要はありません。
L型でない場合も感染と露出には注意が必要です。腫れたり、痛みがある場合には担当医にすぐに相談することが大事です。
最後に、ここでは曲がりのトラブルについて解説しました。画像の検査で元々の鼻の曲がりをきちんと確認して、曲がった原因を正確に診断してもらってください。あとは、個々のケースに応じてオーダーメイドの治療プランが計画されていきます。
- 患者さんの個人情報の保護のため、ご本人とのお話の内容は一部変えています。あくまで、一般的な治療の流れを理解していただくための、イメージだと考えてください。
- 治療の効果には個人差があります。主治医から十分な説明を受け、リスクや副作用についても納得してから手術を受けましょう。
施術内容:鼻骨変形治癒骨折矯正手術、鼻中隔矯正術、下鼻甲介切除術
*この方は、保険治療として、上記手術を全身麻酔で行いました。
鼻の手術のリスク
術後出血、感染、傷が開く、曲がりや変形の残存、鼻閉の残存、後戻り、など
費用
この方は、保険治療で、手術にかかる費用は高額療養費制度の対象となりました。
費用は約5〜26万円が目安となりますが、詳しくは厚生労働省のH Pをご参照ください。これ以外に、入院日数により入院費用がかかることがあります。
*特に、美容外科目的で治療を受けてシリコンインプラントのトラブルが起きた場合には、自費治療になります。
- 聖路加国際病院 形成外科 毎週金曜日 初診外来 予約制
- 加藤クリニック麻布 美容外科 毎週月曜日水曜日土曜日 初診外来 予約制
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