こんばんは。東京で美容外科をしている形成外科専門医の齋藤隆文です。
鼻中隔延長術びちゅうかくえんちょうじゅつは、鼻を高くしたり、特に下方に鼻先を下げる手術で最も効果が高く安定している術式の一つとされています。
それこそ、糸治療やヒアルロン酸注入では決して出すことができない、鼻尖びせんの比較的大きな変化を可能にしてくれる強力な武器として、鼻手術を専門としている美容外科医のほとんどが、日常的に使っているテクニックです。
さて、そんな鼻中隔延長術ですが、効果が高い一方で、”術後に曲がりが出る”というリスクが一般的に知られています。今回は、その曲がり変形が実際に起ってしまったモニター患者さんの治療経過のお写真を見ながら、
- なぜ曲がるのか
- どのようにすれば曲がりのリスクを下げられるのか
- もし曲がってしまった場合には、どのような修正治療が必要になるのか
といった点について解説していきたいと思います。
鼻中隔延長が曲がる原因は色々ある!が、その多くは予防したり避けることができる
鼻の美容手術についてのカウンセリングをしているとよく聞かれるのが、
鼻中隔延長術ってやっぱ曲がっちゃうんですか?
というもの。つまり、曲がるのか、曲がらないのか、という”YES or NO”で答えるような質問が日常的に飛んできます。
とてもシンプルな質問ではあるんですが、これに正確に答えるには、まず”なぜ曲がる可能性があるのか”という点について、正しく理解していただく必要があります。
①そもそも鼻の奥が曲がっているケース
お鼻という3次元的な構造物は上半分の骨と、下半分の軟骨によってできています。下の図で、特に下半分水色の軟骨部分の鼻筋ラインを決めているのは、鼻中隔軟骨びちゅうかくなんこつと呼ばれる軟骨です。
拡大したのが右側の図ですが、鼻中隔軟骨という縦に走る軟骨がオレンジ色の部分になります。ここがまっすぐの状態と、曲がってしまっている場合があり、曲がっている場合は鼻が曲がったで表現されることもあります。
しかしながら、鼻筋が一見まっすぐに見えるけど、ここが曲がっている、という場合があるのが厄介やっかいなパターンです。
鼻中隔延長手術びちゅうかくえんちょうしゅじゅつというのは、その言葉通り、このオレンジ部分の軟骨を延長することにより、鼻のカタチを変えることを目的としています。
なので、ここが最初から曲がった状態なのにも関わらず、そのままこれを延長するような手術を行うと、当然ながら鼻が曲がって作られてしまうことになります。
なので、鼻中隔延長手術を検討する場合には、あらかじめここが曲がっているかどうかを確認しておき、曲がっている場合は手術中にここをまっすぐにする治療をプランしておく必要があります。
移植した軟骨自体が曲がっている、あるいは曲がったカタチで軟骨が固定されたケース
鼻中隔軟骨がまっすぐの状態だった場合でも、ここを延長するために移植いしょくした軟骨そのものが曲がっている場合、あるいはその軟骨はまっすぐでも、鼻中隔軟骨びちゅうかくなんこつと平行ではなく曲がった状態で固定されてしまった場合にも曲がりの原因となります。
これらを避けるためには、まず移植軟骨がまがっていないことを確認する必要があります。
特に、胸から採取することの多い肋軟骨ろくなんこつはワーピング現象と呼ばれる、いわゆる徐々に曲がってしまう特性があることが知られています。
しかしながら、軟骨を板のカタチに切り出すときの切る角度、その後の保存方法で事前に曲がる特性が強いかどうかをチェックする方法が報告されています。
また、耳介軟骨じかいなんこつは、そもそもとても柔らかい軟骨であるため、固定の方法を間違えると術後すぐに曲がりが出てしまうため、組み合わせ方、糸のかけ方、固定の位置と角度、まで正確に進めていく必要があります。
これらの知識をきちんと整理して、誤った材料の準備や固定を行わなければ、曲がるリスクをゼロに近づけることができます。
実際に曲がってしまったケースの写真の治療経過を見る
いきなりですが、術前後のお写真です。この方は、私の外来にいらっしゃる以前に、他院で鼻中隔延長手術により鼻先を高く、プロテーゼにより鼻筋を高くするお鼻の美容手術をお受けになっています。
その手術後に、①鼻が曲がり、②鼻の穴のカタチがおかしくなり正面から丸見えになった、というお悩みで私の外来にご相談にいらっしゃいました。
見てみると、彼女にはまずお顔の左右非対称があることが明らかでした。特に下半分のお顔の輪郭に注目いただくと、左右のバランスが異なっていることがわかるかと思います。
こういったケースでは鼻中隔軟骨びちゅうかくなんこつが曲がっている場合が多く、この方の場合もCT検査により、曲がりがあることが確認できました。
さらには、鼻中隔延長手術に使われてる耳介軟骨じかいなんこつそのものも曲がってしまっており、ダブルの原因で鼻が曲がってしまっていました。
さらには、
- 鼻先の形作りの方法が原因で鼻の穴が見えやすくなっている
- 鼻筋のシリコンプロテーゼが太く、少し曲がって入っている
- 曲がって入った移植軟骨が原因で鼻の穴の奥が狭くなっている
といった問題が認められたため、修正手術を行うこととしました。こういったケースでは、胸から肋軟骨ろくなんこつを採取しないと、修正に必要な軟骨の量が確保できません。
肋軟骨は通常右の胸に1.5センチほどの切開をして取り出します。女性の場合には、乳房の下のラインにキズを合わせることで、キズアトを目立たないようにすることもあります。
リスクとしては、術後に痛みが強くなることがありますが、特に筋トレなどの激しめの運動習慣があり腹筋周囲が発達している方は痛みが出やすい傾向にあります。
ただし、最近は技術知識の向上と麻酔薬の工夫が進んでいるため、手術翌日から日常生活はほとんど問題なく過ごせるようになっています。
実際の手術では、曲がっている鼻中隔軟骨の曲がりを修正してまっすぐストレートにした上で、まっすぐの板として作成した肋軟骨を使って鼻中隔延長手術を行っています。
また、鼻筋もシリコンプロテーゼは抜去し、細かく粉砕した肋軟骨で鼻筋の高さを整えています。
ちなみに、二重のラインが整っているのは、おでこにボトックスを打って眉毛の上げグセを治療したためです。
こういったお鼻のシビアな修正手術でご相談にいらっしゃた場合であっても、お顔の印象を全体に改善するような、
”お顔を良くする”
治療を常に念頭におきながら治療計画をご相談するように心がけています。
まとめ
今回は、最近のお鼻の美容外科のトレンドとして定着してきている鼻中隔延長手術びちゅうかくえんちょうしゅじゅつのトラブルの一つである、曲がり、について解説しました。
お鼻の手術はトラブルが多く、修正手術になる頻度が他のお顔の手術に比べて高いことが多くの論文でも報告されています。
たった数センチ四方の中に三次元的な複雑な構造で佇んでいるお鼻のカタチを変えるわけですから、極めて繊細な治療プラン、手術手技、術後ケアが求められる領域です。
そんな中で、どういった原因で曲がりが起こってしまうのか、その場合にはどういった治療をしていく必要があるかについての一般的な知識を知っていただけたかと思います。
最低限ここに書いてある内容については患者さん自身が知っており、担当ドクターとその情報をきちんと共有する必要があると思います。
そして、実際に曲がってしまった方については、なぜ曲がったのかについて今回ご説明したような点についてドクターと検査や診察を進め、改善が期待できる良い治療プランが立ってから修正手術に望むようにしてください。
施術内容:プロテーゼ抜去、鼻中隔延長術、鼻尖形成術、隆鼻術、肋軟骨採取、前額ボトックス
*他に、他院でバッカルファット切除を受けておられます
手術費用:約146万円 *モニター費用
リスク:術後出血、感染、キズが開く、曲がりや変形の残存、後戻り、など
- 聖路加国際病院 形成外科 毎週金曜日 初診外来 予約制
- 加藤クリニック麻布 美容外科 月曜日水曜日土曜日 初診外来 予約制
*HPトップページに予約可能なお日にちとクリニックのカレンダーを掲載しています
- 患者さんの個人情報の保護のため、ご本人とのお話の内容は一部変えています。あくまで、一般的な治療の流れを理解していただくための、イメージだと考えてください。
- 治療の効果には個人差があります。主治医から十分な説明を受け、リスクや副作用についても納得してから手術を受けましょう。
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